目撃場所/ローラー付き引出しボックス


人が高い場所に登る時。それには二つのケースがある。一つはなんらかの必要に迫られている場合であり、もう一つはなんの必要にも迫られていない場合である。前者においては高所にある物を取るという理由が一般的だろう。しかし後者はいささか難解である。そこに理由らしき理由は見あたらない。強いて言えば「登ってみたいから」という素朴な好奇心が挙げられる。このピクトさんはあきらかに後者である。ボックスの上に立ち、そこから意味なくまわりの景色を眺めてみたかったのだろう・・・ボックスの下にローラーが付いているとも知らずに。軽挙とはこのことである。彼は万有引力の法則を思い知ったに違いない。高く上げた両手が、落下するわずかな瞬間に空中をつかもうとしているように見えるところが実に悲しい。溺れる者ワラをもつかむというが、落下する者は空気をもつかむのである。


天体の運動はいくらでも計算できるが、人の気持ちはとても計算できない。
ニュートン