メキシコ大特集


■ピクトさんからメキシコ文化が見えてくる。



「さて、こちらはエスカレーターですね」
「これはケレタロという町のデパートで見つけたものです」
「日本でも見かけるタイプのものだけど、よく見ると表現の仕方が違います。このピクトさんも細長いなあ」
「これ撮ってるときにね、5歳くらいの女の子がものすごい怪訝な顔で私を見てました」
「ははは。何をしてるんだこの東洋人はと」
「はい」
「これをきっかけにその子もピクトさんに興味を持ったりしないですかね。いつかメキシコからメールが来たりして」



「こちらはプエブラという町のショッピングモールの休憩スペースにいたピクトさんです」
「なんか手に持ってますけど」
「棒つきキャンディーだと思います。メキシコ人って、やたらとキャンディーとかアイスとか食べてるんですよ」
「大人も?」
「はい。いい大人がいろんなところでキャンディー食べてました」
「ミイラ飴じゃなくて?」
「じゃなくて(笑)。アイスも、キャンディーも」
「へえ。だからピクトさんもキャンディー持ってるんですね。なんかピクトさんを通してその国の姿が見えてきますね。『ピクトさんで見る世界の文化』みたいな本書こうかな」
「ぜひ書いてください」
「ピクトさんを通さないほうがよく見えるんじゃないかという説もありますけどね」



「これはイチゴのシャーベットなんですが、他にもレモンとかスイカとかいろいろあって、どれもすごくおいしいんですよ。果汁がそのまま固まってる感じで。おいしいからみんな食べるんだなと思いました」
「おいしそう」



「こちらはアイスキャンディー売りです」
「アイスだからペンギンというわけか。でもペンギン描きすぎじゃない?これ。足にも描いてる(笑)」

「あと関係ないんですけど、さっきのショッピングモールで座って休憩してたら、おばあさんが話しかけてきたんですよ」
「現地の人?」
「そうです。スペイン語でダーってなんか言われて。で、『わからない』って言ったら、今度は隣に座ってたメキシコ人に話しかけて。なんだろうって思って見てたら、どうやら道を聞いてるらしいんですよね。なんで最初に私に話しかけたんだろうって思って」
「(笑)どう見ても外国人なのに」
「私、よく人に道を聞かれるんですよ。日本にいる時はもちろん、パリに行った時も現地の人に道聞かれたことがあって」
「はははは。でも分かる気がする。よし姐さんには私、一度お会いしてるわけですけど、頼りがいある感じだもん。道を聞きたくなる気持ち、分かる」
「この人ならなんとかしてくれそうだ、みたいに思われるんでしょうか」
「思う思う」
「私の兄もよく道を聞かれるらしいんですよね」
「じゃあ遺伝子なんじゃないですか。そういうDNAがあるんだきっと。道聞かれ遺伝子が」
「道聞かれ遺伝子(笑)」





「これは泊まったホテルにいらっしゃったピクトさんです」
「大作ですね」
「すごく懇切丁寧に描かれてるでしょ」
「しつこいくらい描いてますね。煙の中を這って進んでるピクトさん、いいなあ」
「今回の旅で分かったのは、メキシコは全体的にピクトさんに力を入れている国だということです」
「ほう」
「思った以上に、たくさんピクトさんに出会えましたから」
「ピクトさん大国だと」
「それと、メキシコの識字率は90%くらいらしいんですよね」
「10人に1人くらいは、文字の読めない人がいるんだ」
「そうです。だからピクトさんが多いのかな、と思って。いや、これは推測ですけど」
「なるほど。それも『ピクトさんで見る世界の文化』に取り上げましょう」
「ほんとに書くんですか」


■ピクトさんのせいで・・・

「撮影できなかった幻のピクトさんがいたんですけど」
「どんなのですか」
「鍾乳洞に入っていくピクトさんなんです」
「おお〜」
「天井からつららが垂れているところを、ライトを手に進んでいる図です」
「じゃあ『幻のピクトさんファイル』に入れておきましょう」
「で、私も鍾乳洞には入ったんですが、日本の鍾乳洞と違って、ものすごく暗いんですよ中が。ライト、足元しか照らされてなくて」
「怖いですね」
「怖かったですよ〜。でも中でちょっと面白い光景も見れました」
「なんですか」
「向こうは有料トイレがけっこう多くて、有料トイレの前には必ず料金を受け取る係の人が座ってるんですよ。で、その鍾乳洞の中にもその有料トイレがあってですね、男性と女性が二人、暗闇の中に座ってるんです」
「わはははは。心細いだろうなあ!」
「これです」



「世の中にこんなに寂しい職業ってないんじゃないかと思いました」
「寂しいですよねえ」
「これ絶対恋芽生えるだろうって思って」
「1日中、暗闇で二人っきりですもんね」
「観光客の団体は、1時間に1回くらいしか来ないんですよ。だからその時以外は、ほんとに二人っきりで」
「すごい仕事だなあ」





「このトイレピクトさんは「ぱんだ印」さんに送ってあげたら喜ばれるかも。デザイン的には普通だけど。でもやっぱり若干スマートですよね、男子のほう。足開いて立ってるのもポイントかな。あと腕の広げ方」

「さて、次がいよいよ最後のピクトさんになります」
「はい」



「同じデザインのものが日本にもありますね。それのメキシコバージョンだ。もともと、どこ発なんだろうな」
「これはモレーリアという町の空港で撮ったんですけどね、ピクトさんのせいで大変な目に遭ったんですよー」
「どうしたんですか」
「警官に尋問されました」
「わはははは・・・って笑い事じゃないですね」
「今世界中どこでもそうなのかもしれないけど、空港なんかで一人で写真撮ってたら怪しまれるんでしょうね」
「まあ空港じゃなくても十分怪しいですけどね。ピクトさん撮ってると」
「警察官が二人来て、いろいろ聞いてきたんですよ。何を撮影してるんだ、とかって」
「向こうはスペイン語?」
「いや、英語で。メキシコ人って英語のできる人が少ないんですけど、その人たちは英語ができたので、なんとか会話して」
「なんて言ってきたんですか」
「撮った写真を見せろって」
「デジカメの画像を」
「はい。で、『これを撮ってたんだ』って言ってピクトさんを見せたら、『なんでこんなものを撮るんだ』って」
「そりゃ聞きますよね」
「でもいろいろ説明するのは面倒くさいなあと思って」
「日本人に説明するのも難しいですからね」
「I like it.って答えたんですよ」
「一言で」
「あと私、空港の外に止まってたパトカーも撮ってたんですね。何気なく」
「なんでパトカー撮ってるんですか!(笑)だから怪しまれたんじゃないですか」



「で、『このパトカーはなんで撮ったんだ』って言われて」
「そりゃ言われますよ。なんて答えたんですか」
「It's cool.って」
「よくとっさに出てきますね」
「そうしたら『こいつ怪しいやつじゃないな』っていうのが分かったみたいで」
「わかったんだ(笑)」
「他にもいろいろ質問してきたんですけど、だんだん途中から質問がいい加減になってきて。『ボーイフレンドはいるのか』とか『メキシコの男をどう思う』とか聞いてくるんですよ」
「ナンパじゃないですかそれ」
「わかんないけど。とにかくそんなことがあったんです。ピクトさんを撮ってたばかりに」
「まあピクティストの宿命だと思ってください」


■メキシコは日本ブームなのか。

「これはおまけ画像です」



「ピカチュウだ!でも首から下がオッサンっぽい」
「お祭りの参加者なんですが、ピカチュウ、メキシコでも大人気なんですよ。テレビでやってました」
「ジャパニメーション強し、ですね」
「あとドラゴンボールも放送してました」



「あとこれ、お土産売場に売ってたんですけど」
「あ夏そ!」
「メキシコの至る所で売ってました。このTシャツ」
「あ夏そブームが来てるんですかね。メキシコ」
「しかもよく見ると『夏』がおかしいんですよ」
「あ、ほんとだ。下の部分がおかしい。一本たりない」
「ここの部分の棒が欠ける意味がわからないです」
「普通ここだけ欠けないですよねえ」
「なぜか欠けてる」
「外国人って明朝体好きですよね。しかも力強い明朝が。東洋っぽいと思うのかな」
「さっきのバスのカタカナの話もそうですけど、日本語が注目されてるのかなと」
「漢字のタトゥーを入れる外人もよくいるでしょ。見た目がかっこいいんだろうな。昔、なんていうバンドだったかな、忘れたけど、外国のミュージシャンで、二の腕に漢字で『音楽』ってタトゥー入れてる人がいて」
「(笑)」
「コワモテのハードロックバンドだったから、余計に可笑しかった」

「えーっと。話は尽きないんですが、そろそろ締めましょうか。半分以上ピクトさんと関係のない話だったような気もしますが。ではよし姐さん、最後に何か1枚、見せてください」
「じゃあグアナファトの少年マリアッチを。向こうの人は写真に撮られることを極端に忌み嫌う人と、逆に撮られるのが大好きな人とがいるんですね。好きな人は写真撮ってると勝手に被写体になりに寄ってくるんですよ」
「へえ。両極端な」
「一部のメキシカン・インディオは写真を嫌がるんです」
「そうなんだ」
「この写真の人たちは写真大好きっ子で。私、全然お願いしてないのに、カメラ構えてたら勝手に集まってきて」
「いい写真ですね」



「長い時間ありがとうございました。またどこか外国に行かれたら特集組むので、よろしくお願いします」
「はい。警官に尋問されない程度にがんばります」

(おわり)